※この話は実話を元に、一部フィクションも加えています。
牛丼チェーン店の深夜アルバイト
僕は服飾専門学校に通っていた頃、1年間だけ牛丼チェーン店でアルバイトをしていた。
選んだ理由は牛丼が好きだったわけではない。
ただ単純に最寄り駅に牛丼チェーン店があったから。
通学中、たまたま通りかかった牛丼チェーン店にアルバイト募集の垂れ幕が大きく出ていた。
深夜バイトの時給金額を見て、「ここだ!」と決めた。
それでも当時の地方の深夜アルバイト時給は1100円も満たなかったと思う。
服飾専門学校はデザインの課題が多く忙しい。
僕は多忙な学生生活のスキマを縫うように週に最低2日間は深夜アルバイトを頑張ることにした。
学校の課題で必要な生地や素材などは全て学生の実費。
良い作品を作るためには生地や素材にこだわる必要がある。僕は材料に妥協はしたくなかった。
なのでアルバイト代をしっかり稼ぐ必要があり、深夜のアルバイトで効率よく稼ぐようにしていた。
いつも夜の10時に出勤し、そのまま朝の7時まで2人体制でお店を任されるスタイルだ。
店内は夜の街の縮図
牛丼チェーン店での深夜アルバイトは特殊な環境だった。
最寄り駅は飲み屋がひしめく地域であり、多数の居酒屋やカラオケ店、キャバクラなどが並ぶ街。
必然と昼間とは違い来店する客層も夜になるとガラッと変わる。
ほろ酔いで “シメ” として牛丼を食べる人。
どこかのお店の休憩時間に制服のまま来る人。
集団で来るカラオケ帰りの学生。
出勤前のキャバ嬢。
などなど。
まだ学生で世の中の全てを知らない僕にはお客さんを見ているだけで社会勉強になった。
やがて夜が明けて朝になると、
現場へ向かう前の肉体労働の人たち。
会社へ出勤するサラリーマン。
などの客層に変わり一気に慌ただしくなる。
この夜と朝のコントラストも興味深かった。
深夜のチェーン店あるある
深夜の牛丼チェーン店にはいろいろな人が来店するので当然いろいろなことが起こる。
意味もなく騒ぐ人、ビール瓶を何本も追加してなかなか帰らない人(当時、ビールの提供と本数制限などはまだ無かった)。
そして何より多かったのは店内で寝てしまう人だ。
深夜に酔っ払って眠たくなり牛丼を食べた後に寝てしまう人が圧倒的に多い。
そんな時はマニュアル通り、僕たち店員は寝ている人を起こさないといけない。
店内で寝てもらっては困るからだ。
深夜3時〜4時くらいになれば1日1回は
「すいません、起きてくださーい」
と、気持ち良さそうにテーブルに突っ伏して寝ている名前も知らない人を起こすことになる。
起こす僕たちに感情なんてない。寝ている他人の体を叩きながら起こしている時の感情は「無」そのものだ。
ただ1度だけ今でも思い出し笑いをしてしまうような経験がある。
ニューエラのキャップをかぶった男性
その日は週末でシフトに入った直後から忙しかった。
これから飲みに行く人、帰る人、出勤の人、学生、、、などなど日付をまたぐ時間までお客さんの流れが途絶えることがなく満席が続いていた。
ようやく深夜1時頃から入客数が落ち着いてきた。僕は店内の掃除や次の日の準備などルーティンの作業に入った。
同時にもう1人のアルバイトのスタッフと休憩を交代で取ることにした。
先にもう1人のスタッフに休憩に入ってもらい、彼は2階にある休憩室へと消えていった。
店内は僕1人。
お客さんは誰もいない。
僕は淡々といつも深夜アルバイトがやる作業をこなしていた。
次の日のピーク時間用に使うメニューの仕込みをたくさん仕上げておかないといけない。
「いらっしゃいませー」
ドアが開いた気配と共に僕は条件反射的に反応した。
そこにはお酒で顔を赤くした30代前半くらいの男性が入店し、席につくなり
「牛丼、大盛り!」
と僕を見ることなく乱暴に言った。
彼はフードパーカーにニューエラのキャップをかぶっていた。
「大盛り一丁!ありがとうございまーす!」
僕は自分1人しかスタッフがいない中でもマニュアル通り復唱した。
すぐにどんぶりへご飯をよそい、牛丼をのせて完成させた。
「牛丼大盛り、お待たせしましたー。」
僕はニューエラのキャップをかぶった男性に牛丼を差し出した。
彼は酔っているのか頭をフラフラしながら割り箸を割り始めた。
そのまま、まだ5分くらいしかたってなかっただろうか。
作業をしながらニューエラのキャップをかぶった男性を見ると、箸の手は止まり寝ているようだった。
こうなるといつものようにお客さんを起こす必要がある。
僕はニューエラの彼の方へ近づいていった。
その時、僕は異変に気づいた。
寝ている彼、ニューエラのキャップのツバがどんぶりの中に入ってしまっているのだ。
明らかに食べかけの牛丼にニューエラのキャップが刺さっている。
僕は彼を起こすことを少しためらった。
でもお店のルールで寝ているお客さんを起こす必要がある。
僕は軽く肩を叩きながら
「すいません、起きてくださーい。」
と恐る恐る伝えた。
するとムクッとスローモーションで彼は顔をあげた。
と、同時に絶妙なバランスでニューエラのキャップのツバに牛丼やお米がこびりついている。
僕の視線は牛丼だらけになったニューエラのキャップに釘付けとなった。
「お、お会計してー。。」
眠たそうな顔と牛丼だらけとなった男性が僕に伝えた。
僕は笑いを抑えながら素早くお会計の対応をした。
そして彼はニューエラのキャップに牛丼を乗せながらフラフラと夜の街に消えていった。
・
・
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この出来事があってから、僕はニューエラのキャップを見ると当時の彼のことを思い出してしまう。
ニューエラは毎年いろいろなブランドとコラボをして話題となっているが、牛丼とのコラボが実現したことを知っているのは僕だけしかいない。。。
END
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ライター:高嶋一行(Kazuyuki Takashima)
tokyosamplesale.com運営者。
英国にてロンドンコレクション参加ブランドで1年間働き帰国。
東京ファッションウィーク参加ブランドの販売スタッフを経験した後、インポートブランドを扱う輸入代理店勤務。
その後、再び渡英し日本ブランドの海外セールスを行うエージェント業務を行っています。
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